search the best way
都会ではないが、新幹線が停まるこの街で、少しだけ居心地の悪さを感じながら2年半生きてきた。
出会いは多かったが、気のおけない人は居なかった。
ずっと本音を言えず、建前だけで話す内に、綺麗事で汚れていく自分が嫌いだった。それでも、自分を好いてくれる人がいた、と信じたい。
数年前までは心の拠り所だった音楽もいつのまにか、聴く時間も探す時間も減っていった。代わりはなかった。
この街を去ろうと考えたのに明確な理由はない。綺麗事で言えば、「キャリアを積むため」。会社にはそう言って、辞めた。引き止められはしなかった。
次の街はどんな街なんだろうか。
いつも通り自分を粘土のように捏ねくり回して、そこの形式に嵌めて仕舞えばいい。そして飽きれば捨てればいい。
塗り固めた仮面ばかりが重なって、息を吐く間もないまま生きていく。
イヤホンから流れる曲のボリュームを1つ上げる動作を最後に、この街を去る。
one journey
ずっと前に去った街に背を向けて歩いて来て、ふと振り返ると随分と遠くに来てしまったことに気が付いた。
紆余曲折を繰り返し、繰り返し今ここに居る。
出会いは多く、別れは少なかったこの数年だったが、久し振りに別れを実感して
少しだけ鼻の奥がツンと痛んだ。
○
太陽が西の空を横切ったあと、水を張った田園から立ち込める水蒸気でこの街は群青に染まる。
薄暗い街燈がぼんやりと照らすバイパスには疎らに車が走っていた。
この光景を見るのもあと数回か。と思いながら、青い煙を飲んでいた。